走らずにランナーとして成長する方法
Coaching
スポーツへの取り組み方を切り替えれば、体力がつき、けがを防止できるというのは事実。その理由は何か、また具体的な方法について学ぼう。
ランニングが気軽に取り組めるすばらしいトレーニングであることは言うまでもない。この記事を読んでいるということは、そんなことは百も承知だろう。しかし、ランニングが生き生きとした生活の大事な一要素であっても、ワークアウトがランニングだけだというのはよろしくない。より力強く、より速く、ダイナミックに走れるようになるには、カーディオ、筋力トレーニング、アクティブリカバリーを意図的に組み合わせたクロストレーニングが必要だ。
ここでぜひ学んでほしい。
クロストレーニングが優れている3つの理由
- 調子を整える。
「走ることでランナーとしては成長しますが、優れたアスリートになれるわけではありません」と、ベネットコーチとしてお馴染みのNikeグローバルランニングシニアディレクター、クリス・ベネットは言う。走れば運動になるが、前後方向だけの運動に過ぎず、運動パターンは歩行のみ。しかも有酸素性のエネルギー供給システムに頼りがちだ。一方、クロストレーニングを適切に行えば、前後方向、縦方向、横方向の3面にわたって体を動かすことができ、プッシュ、プル、スクワット、ランジ、ヒンジなどの運動パターンをすべて取り入れられる。さらに、体の3つのエネルギー供給システム(対応する運動強度が異なる)をすべて向上させることができるため、より強い、バランスの取れたアスリートになれるとベネットコーチは説明する。 - モチベーションを高める。
前述したようにランニングはすばらしいトレーニングだが、そう思えなくなることもある。時には変化を加える必要があるが、コースを変えればいつでも前向きになれるというわけでもない。しかし毎週行うワークアウトに変化をつければ効果的だ。強度をどうするかはさておき、異なるワークアウトを取り入れるだけで、特定の筋群と心に不可欠な休養を与えることにもなるとベネットコーチは話す。このようなアプローチでトレーニングを行えば、スポーツランをますます好きになるだろう。 - けがのリスクを減らす。
けがの防止は、クロストレーニングに求められる最大のメリットではないように思われるかもしれないが、日常的に走れるランナーになるための重要なポイントとなる。なぜなら、心肺システムは比較的短期間で調整が行われるのに対し、舗装路を踏みしめる際の衝撃に耐えられる強い筋肉、腱、靭帯を手に入れるためには時間がかかるからだ。そう説明するのは、オハイオ大学の運動生理学、クロストレーニング、外傷予防の専門家であるイアン・クライン。また、クロストレーニングは水平方向の運動、ジャンプ、ストップ、スタートの訓練になり、実生活に即した十分な動きが習得できるため、舗装路でも不整地でもけがの少ないアスリートになれるとベネットコーチは説明する。
「走ることでランナーとしては成長しますが、優れたアスリートになれるわけではありません」
ベネットコーチ
Nikeグローバルランニング シニアディレクター
クロストレーニングの推奨頻度は人によってさまざま。「頻度よりもトレーニングの量が問題です」とベネットコーチは話す。1日に最低5分から10分、シングルレッグデッドリフト1セット、または片脚立ちでバランスを取るといったクロストレーニングを行い、心身ともに調子が良ければさらに長時間(20-60分間)トレーニングに励むとよいと、ベネットコーチはアドバイスする。
取り組む時間の長さはさておき、この3つが今日から効果的なクロストレーニングを始めるべき理由だ。
1. ローインパクトのカーディオトレーニング
サイクリング、スイミング、ローイング、ハイキング。これらローインパクトのカーディオトレーニングはどれも、ランニングによる強い負荷を避け、持久力を備えた力強い筋肉を養う効果があると言うのは、ジェイソン・フィッツジェラルド。全米陸上競技連盟認定コーチであり、「Strength Running」というコーチングプログラムの考案者でもある。また、これらのアクティビティは有酸素系のトレーニングにもなるため、走ることで生じる筋肉や腱などの軟部組織への負荷を増やすことなく、酸素を取り込んで使う能力を高められる(ランニングのパフォーマンスの向上につながる)とも述べている。
脛骨過労性骨膜炎を引き起こす、ひざや足首の痛みに悩まされるなど、けがをしやすいランナーは、軽いランニングをカーディオクロストレーニングに置き換えることで、脚を衝撃から遠ざけて健康な状態を維持することができる、とフィッツジェラルドは続ける。ランニングとローインパクトのカーディオトレーニングの割合についての完璧なバランスは存在しないが、気持ちよく走れ、土踏まずや痛みをケアしなくても済むのであれば問題はないとベネットコーチは話す。
2. 筋力トレーニング
ウエイトリフティング、クロスフィット、プライオメトリクス(スクワットジャンプ、交互に足を入れ替えるジャンプランジなど瞬発力を高めるジャンプエクササイズ)、また基本的な自重筋力トレーニング(エアスクワット、プッシュアップなど)でも筋力と持久力を高められる。筋力を高めることで、日常生活が楽になる(詰めすぎた旅行カバンや買い物袋を運んだり、小さい子どもや犬を抱き上げたりするとき)だけでなく、走るのも楽になる。なぜなら筋力が強くなれば疲れにくくなるからと、筋力トレーニングおよびコンディショニングの認定コーチであり、アトランタを拠点とするコーチング企業、Running Strongのオーナーであるジャネット・ハミルトンは解説する。つまり、長距離を走ることで加わる負荷に耐えられるよう関節を強化できるため、より長い距離を力強く走れるようになるのだ。
p「定期的に走って1か月に30日走るランナーでも、筋力トレーニングをしていなければカーディオレベルの向上しか期待できないため、1か月に1日しか走らないランナーと同等です」とベネットコーチは話す。「筋力を鍛えずにただ走り続け、カーディオと筋力運動のギャップが広がるほど、ランナーとしての成長を妨げる壁につき当たり、けがのリスクも増します」アメリカ心臓協会および多くの専門家は、1週間に2回以上の筋力トレーニングを推奨している。ただし、20分以下といった短時間のワークアウトで、同じ筋群を連続して鍛えられないのなら、もっと頻繁に取り組んでもよいとベネットコーチは言う。
3. アクティブリカバリー
好きなアクティビティを行った後、自分が感じる負荷を、1-10の段階の3程度に落とすのがアクティブリカバリーだ。気軽なサイクリング、リラックスムードのハイキング、長めのウォーキング、ヨガやピラティスの初級または中級クラスなど、筋肉を酷使したり、汗まみれになったり、メンタル面で苦しい思いをしたりしなくて済むアクティビティに取り組めばよい。
ウェスタンコロラド大学の調査によると、負荷の低いサイクリングやウォーキングといったアクティブリカバリーは、ただの休息よりも、ハードなランからのリカバリーを速める効果があるという。この種の運動は筋肉への血流量を増加させ、筋肉の自己修復が促進されるからではないかという別の研究結果も『Journal of Sports Sciences』には掲載されされている。また、『Journal of Sports Science and Medicine』に掲載された研究では、アクティブリカバリーを行うことで他のスポーツに取り組むときにの心拍数が抑えられ、つらいと感じにくくなる効果が確認されている。つまり、次のランでは、疲労感をあまり感じることなく実力を発揮できるようになるということだ。
アクティブリカバリーとして、どのぐらいの頻度で、どのようなアクティビティを取り入れればよいかを算定するために、ベネットコーチのアドバイスを試してみよう。「そのアクティビティに気持ちよく取り組めそうかどうか、自分自身に問いかけてみてください。」アクティブリカバリーは(そしてクロストレーニングも)、走るうえでの身体面のメリットが期待できるだけではないとベネットコーチは話す。
ベネットコーチ曰く、「クロストレーニングで期待できるのは、次のランニングの向上につながる感情的、あるいは精神的な飛躍。自信と安心感が得られるかどうかが最も重要なポイントです」
文:アシュリー・マテオ
イラスト:ライアン・ジョンソン