ワークアウト後に冷たいシャワーを浴びることにメリットはある?
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疲労回復を早めることを期待して、ワークアウト後に冷たいシャワーを浴びている方に、まず知っておくべきことをご紹介します。
熱いシャワーを浴びてから最後に冷水をザッと浴びることが、ここ数年人気を集めている。髪の毛の健康状態や免疫システムに効果があると言われているが、研究では、冷たいシャワーの効果はほどほどに過ぎないと報告されている。 冷水療法は新しいものではない。研究者によれば、トーマス・ジェファーソンも「健康を維持する」ために、冷水のフットバスを利用していたそうだ。しかし、ワークアウト後に冷たいシャワーを浴びることに健康上のメリットがあるとする説を裏付ける科学的根拠はあるのだろうか?
査読済みの研究によると、冷却療法、つまりクライオセラピー(損傷組織を氷点下か氷点下に近い温度に冷やす処置を伴う治療法)は、ハードなワークアウト後の回復を促進する手段として、アスリートから特に支持されているという。 とすると、ワークアウト後の冷たいシャワーにも少なくとも同程度の効果があるはずだと考えたくなる。費用をかけず、簡単に実行できる回復手段となるとなおさらだ。
「ワークアウト後に体を冷やすという基本理論は、冷水にはトレーニングに対する体の適応性を高め、高いレベルで運動を行う能力を回復させる効果があるとする説が基になっています」と話すのは、サンフランシスコでAvid Sports Medicineを創設し、医師を務めるベロニカ・ジャウ博士だ。 「冷やすことで、筋肉の痛みや損傷、腫れ、炎症を緩和できると考えられています。 しかし、この説には研究による完全な裏付けはなく、運動のタイプ、タイミング、頻度(といった要因)によってその効果は異なります」
ここでは、ワークアウト後の冷たいシャワーが健康にプラスになるかどうかについて、エキスパートが解説する。
ワークアウト後の冷たいシャワーに関するエキスパートからの推奨事項と禁止事項
時間がないときは特に、ワークアウト後すぐに冷たいシャワーを浴びたくなるかもしれない。 しかし、冷たいシャワーを浴びるのは、運動後20分以上経ってからにした方がよいと、テキサス州ヒューストンのMemorial Hermann IRONMAN Sports Medicine Instituteに所属する、運動生理学とヒューマンパフォーマンスの専門家、カーリー・メンデスは説明する。
「ワークアウト後の体にはクールダウンの時間が必要です。特に、心拍数と体温を平常に戻すための時間が欠かせません。 体が回復を始められるよう、安静時の体温と心拍数に戻す必要があります」
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アメリカ心臓協会によると、ワークアウト後、心拍数と体温がどちらも高い状態のままクールダウンを省いてしまうと、「失神したり気分が悪くなったり」する可能性がある。これが理由で、ワークアウト後に5~10分クールダウンしてから、さらに10分間ストレッチを行うことをメンデスはすすめている。 そうすれば、冷たいシャワーを浴びる準備が整うというわけだ。 では、冷たいシャワーの効果を最大限に高めるにはどうすればよいだろうか。 単刀直入に言うと、いきなり冷水を浴びるのは避けた方がよい。
メンデスはこう説明する。「まずは、シャワーの温度をぬるめに設定して、温度変化で体にショックを与えないようにします。 体温がシャワーの温度に適応するようになったら、水温を下げ始めてもかまいません。 最後の2分は、耐えられるだけ温度を下げて、主な筋群に水を勢いよく当てるようにします」
プロからのアドバイス:シャワーヘッドの形状により、上半身に位置する筋群にしか水を当てられない場合もあるが、ホース付きで手に持って使えるシャワーなら、下半身の筋群にも水を当てられる。
運動後の冷たいシャワーと冷水浴の効果は同じか?
冷たいシャワーの代わりに冷水浴(アイスバスなど)を試してみたいと思うかもしれないが、これらは同じではない。 この2つの手法では水温が大きく異なるうえ、シャワーヘッドの下に立つだけでは全身に一度に水を当てることはできないとメンデスは指摘する。
「冷たいシャワーでは全身を冷水に浸すことにはならないので、冷水浴の効果を十分に得るのは難しいと言えます」とメンデスは付け加えている。
2017年に『Journal of Physiology』に掲載された論文では、冷水浴には運動後の炎症を伴うストレス反応を抑える効果がないことが述べられている。そして、多く取り入れられているこの手法の真実を暴いた研究は、これが初めてではない。 2007年の研究では、遅発性筋肉痛(DOMS)の予防に対するアイスバスの有効性が疑問視されている。
ジャウはこう説明する。「基本的に、冷水は血管を収縮させ、温水は血管を拡張させます。 けがや運動の後に冷やすことで回復を助けると考えられていますが、逆効果の場合もあります。 筋肉、関節、神経への影響に着目した、運動に関する研究では、さまざまな説が発表されています。ワークアウト後すぐに温めると、細胞の損傷や破壊を悪化させる可能性があるという説もあります」
それでもやはり冷水浴を習慣に取り入れたいと考えるのなら、ワークアウト後すぐは避けてほしいとアドバイスするのは、テキサス州オースティンのROI Physical Therapy and Sports Performanceでパフォーマンスコーチを務める運動生理学者のステン・ストレイ・グンダーセンだ。 「冷水浴は実のところ、筋タンパク質合成を妨げる可能性があります。そのため、筋肉増強に重点を置く場合、ワークアウト前や、ワークアウト後少なくとも4時間は、冷水による刺激を避けるべきです」
筋タンパク質合成は、持久力トレーニングやレジスタンストレーニングで損傷した筋肉を修復するために、体がタンパク質を生成する際に起こる。 この重要なプロセスを阻害するおそれがあるのなら、冷水浴は、運動後の回復や運動能力の妨げになる可能性がある。
冷水浴に以前想定されていたほどのメリットがないとなると、代わりに冷たいシャワーを浴びるのは問題ないのだろうか? 冷水浴ほど悲観的ではないにしても、冷たいシャワーと回復に関する研究も、賛否が分かれる。
運動後に冷たいシャワーを浴びることには本当にメリットがあるか?
『The Journal of Strength and Conditioning Research』で2019年に発表された研究では、ワークアウト後に冷たいシャワーを浴びると、心拍数の回復が早まることがわかったとしている。 ただしこれは、35℃、湿度40~60%で調査対象者が自転車をこいだ後という前提条件付きだ。 この研究論文では、暑い環境でワークアウト後に心臓への負担を減らす手段として、冷たいシャワーを推奨してもよいと結論付けている。
冷たいシャワーを浴びることと、受動的回復を選ぶこと(1日休養することなど)の間にこれといった差はないことを明らかにしたいくつかの研究では、心にプラスの効果を与える可能性が示されている。 冷水による刺激が「強壮剤」として作用し、また交感神経反応を引き起こすことで、痛みの症状が和らぐことがあると、ストレイ・グンダーセンは話す。
米国ストレス研究所の説明によると、交感神経系は、危険性やストレスを感じる状況に対する「闘争・逃走」反応を司る。 交感神経系が活性化すると、ホルモンが急に放出され、心拍数の上昇や震えなどの症状が起こることがある。
「冷水による刺激は血管を収縮させ、興奮を誘い、ノンエピネフリンを放出させます。だから、神経系を活発化させるために、朝または午後にシャワーを浴びるとよいでしょう」とストレイ・グンダーセンは言い、こう続ける。 「精神的な強さを鍛え、不快な状況に対応する力を養う手段としても有効です」
精神面で元気になりたいのなら、運動後の冷たいシャワーは役に立つかもしれない。 ただし、勢いよく冷水を浴びる前に適切なクールダウンとストレッチを行うべきとする指針は守りたい。
ワークアウト後に本当に「クールダウン」をしたいのなら、アイスバスや冷たいシャワーに飛びつくよりも、スポーツで主に使う部位をターゲットにした運動を行う方が効果的だ、とジャウは話す。 例えば、サイクリストやランナーは、レッグスイングのような下半身の運動を重視し、テニスやゴルフのプレーヤーは腰や上半身の筋肉の運動(肩の可動性を高める運動など)に力を入れるとよいだろう。
こういった運動は、冷水を使うよりも回復促進効果が高いことが多いとジャウは説明する。冷水で急激に冷やすのに比べて、体温をゆっくり下げられるからだ。 とはいえ、最後に冷たいシャワーをザッと浴びることで心が元気になるのなら、その習慣をやめる必要はない。心理的なメリットは、研究によって証明済みだ。
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文:アシュリー・ローレッタ