専門家が解説する、寒い日のランニングで胸に痛みが生じる理由
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寒い日にランニングをすると胸に不快感が生じることがある理由と深刻な症状との違いを、医師が解説。
屋外でのランニングには、トレッドミルで走行距離を測りながら行うランニングとは異なる魅力がある。 たくさんのものを見て、新しい道を発見し、外で新鮮な空気を吸って最高の気分を味わえる。 しかし、寒い日に道路を走るのはたやすいことではなく、ランニング中に胸の痛みが生じることもある。
胸の痛みを甘く見てはならない。 しかし専門家によると、気温の低下に伴って肺に少し痛みが生じるのは、ある程度までは普通のことだそうだ。 以下では、寒い日にランニングをすると胸に痛みが生じることがある理由とその対処法について、専門家が説明する。
寒い日に胸に痛みが生じる理由
ラトガース大学ロバート・ウッド・ジョンソン・メディカルスクールのスポーツ医学部長であるジェイソン・ウーマック医学博士によると、胸の痛みは通常、冷たい空気に関係している。 「冷たい空気は特に、気道の炎症や過敏症を引き起こす可能性があります」とウーマックは言う。 つまり、気道がけいれんし、普通に呼吸をするのが困難になるのだ。
Spectrum Healthの呼吸器科部長であるグレン・ファンオテレン医学博士によると、冷たい空気は気道の炎症や過敏症を引き起こすだけでなく、気道が狭くなる原因にもなり、それが胸の痛みにつながっているという。 「これはぜんそく患者ではなくても生じるぜんそく発作のようなものです」とファンオテレンは説明する。
また、ぜんそく患者の場合、寒さによって症状が悪化したり誘発されたりする可能性もある、とウーマックは言う。 ファンオテレンによると、さらに深刻なのは、冷たい空気は乾燥していることが多く、これにより炎症や過敏症が重症化する恐れがあることだ。
ロサンゼルスにあるシダーズ・シナイ・ケルラン・ジョーブ・インスティテュートのプライマリケアスポーツ医学専門家であるトレイシー・ザスロフ医学博士は、「冷たい空気や乾燥した空気に体をさらしながらエクササイズを行うと、ぜんそくのような狭窄が生じる可能性が高くなります」と述べている。
また、バルチモアにあるマーシー・メディカルセンターの認定医であるニコラス・アナスタシオ医学博士が言うとおり、寒さは心臓病のリスク要因であることにも注意しなければならない。寒さによって血管が収縮して心臓への血流量が減り、心臓発作のリスクが高まるのだ。 胸の痛みだけでなく、息切れ、目まい、立ちくらみ、腕から広がる痛みなどの症状が現れ、特にエクササイズによってこうした症状が悪化した場合は、すぐに最寄りの救急医療機関に行くことが極めて重要となる。
寒い日に快適にランニングする方法
ウーマックによると、寒い日のランニングで快適な状態を維持するには、温かい空気を吸い続けることが重要だそうだ。 「必ず鼻から息を吸うようにしましょう。 そうすることで、吸い込む空気が自然に温められます」とウーマックは述べている。また、マスク、マフラー、ネックウォーマーを着用すれば、吸った空気が肺に達する前に温められるという。
ファンオテレンは、ランニングに出かける前に屋内でドリル、ヨガスタイルのストレッチ、ジャンピングジャックなどのウォームアップを行うことをすすめている。これにより、寒さによる肺への刺激を軽減することができる。 寒さが厳しい場合は、「アグレッシブなエクササイズは控えましょう」とファンオテレンは注意を促す。
「寒い日は高負荷インターバルトレーニング(HIIT)やスピードワークアウトではなく、軽めの長距離ランを行うとよいです」とザスロフは言う。
(関連記事:高負荷インターバルトレーニング(HIIT)とは何か?)
どんな時に寒い日のランニングを避けるべきか
専門家たちによると、寒さの中では風の冷たさや湿度によって肺の感覚が変化するなど、さまざまな要素が絡み合っているため、ランニングを行うのに適さない気温をはっきりと示すことは難しい。 一般的には、およそ-6度以下の時は屋外でランニングするのは避けるべきだ、とアナスタシオは言う。
しかし、先に述べた通り、風の冷たさも考慮しなければならない。 「気温が0度でも、強風が吹いている時や風冷指数(体感温度)が低い時にランニングをするのは、好ましくありません」とアナスタシオは述べている。
寒い日のランニングによって胸に痛みが生じた場合の対処法
寒さの中でのエクササイズ中に胸に痛みが生じたら、エクササイズの負荷レベルを下げて暖かい場所に移動するよう、ウーマックはすすめている。 そうすることで「症状が落ち着くはずです」と彼は言う。
ウーマックによると、ぜんそくを抱えている場合は医師が処方した吸入薬を使用するとよい。
また、ランニング後に温かいシャワーを浴びると、湿気と温かさによって症状が改善する、とファンオテレンは言う。 それでも痛みが引かない場合は、心臓や血管の問題など、もっと深刻な原因による痛みである可能性を考えるよう、ファンオテレンは忠告している。 「必ずしも肺に原因があるとは限りません」とファンオテレンは述べている。
ザスロフによると、寒い環境で暮らしていると寒さの中でのエクササイズに対する耐性ができる可能性がある。 「そうでない場合は、本当に寒い日にベストな体調であることを期待してはなりません」とザスロフは言う。
どんな時に診察を受けるべきか
寒さの中でのランニング中に胸の痛みが生じ、負荷を減らしたり屋内に移動したりしても痛みが引かない場合は、すぐに医師の診察を受ける必要がある。 心臓発作など心臓に問題がある兆候かもしれず、急を要する。
寒さによる肺への影響が一因であることがほぼ確実だとしても、寒さの中でのエクササイズ中に胸にある程度の不快感が生じるのは珍しくないことを思い出し、 悪化させないように気を付けよう。 特に持病がある人は、寒さの中でランニングをする前に医師に相談するとよい。
繰り返し胸の痛みが生じており、そのような症状を過去に経験したことがない場合は、医師の診察を受けよう。 「エクササイズによってこれまでにない胸の痛みが生じたら、どんな人も必ず診察を受けてください」とウーマックは言う。 「基礎疾患としてぜんそくを抱えており、治療が必要である可能性があります」
文:コリン・ミラー