ナイジェリア在住のクリエイターが、アフリカンファッションのイメージを覆す

Culture

ロサンゼルス、ロンドン、ラゴスなど、大陸を股にかけて活躍するモモ・ハッサン=オドゥカレ。運営するクリエイティブスタジオで、地元のデザイナーたちに勇気を与えている。

最終更新日:2021年9月8日
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BEYOND THE FIT デザインを超えて:モモ・ハッサン=オドゥカレがナイジェリアのファッションを塗り替える

「デザインを超えて」は、新進気鋭のクリエイターを訪ねて個性的なスタイルに注目するシリーズ。

すべてを成長させて、一つに集約すること。それがモモ・ハッサン=オドゥカレの最終目標だ。ラゴスを拠点に活動するクリエイティブディレクター兼スタイリスト。24歳のモモは、自身の創作活動に明確な意図を持っている。「ナイジェリアだけでなく、アフリカ全土のブランドをスタイリングすること。そして欧米諸国だけでなく、アフリカの人々にもアピールすることに全力を尽くしています」

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母校のセントラル・セント・マーチンズは、世界的に有名なロンドンの美術大学。モモは卒業後もロンドンに留まり、編集インターンやスタイリストのアシスタントとしてファッション業界のせわしない仕事を体験した。その一方で、この業界や自分の世代にも多い燃え尽き症候群を回避しようと常に注意していたのだという。「仕事のせいで、自分を失いたくなかった。この業界は好きですが、故郷のナイジェリアに帰って好きなことをしたいと思いました。ロンドンでファッションに関わりたいという理由だけで、心のストレスを抱える必要はないと思ったのです」

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ナイジェリアに帰る動機は、他にもあった。首都ラゴスには、モモの意欲や創造力を掻き立ててくれる仲間たちがいる。地元の才能豊かな人々を頼って、2019年にはMOMOを設立。MOMOはコンサルティング、スタイリング、クリエイティブディレクションなどのサービスを提供するスタジオだ。今回は、ロサンゼルス、ロンドン、ラゴスと移り住んだモモの半生にフォーカス。世界と地元の両方で、アフリカンファッションのイメージを覆す取り組みについて話を聞いた。

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自分で着る服や仕事の内容に、どんな文化的背景が反映されていますか?

生い立ちは、とても国際色豊かです。先祖はナイジェリア人ですが、私自身はロサンゼルスで生まれ、11歳からイングランドの学校に通いました。それぞれの土地の文化を少しずつ吸収してきたのです。旅行の経験からも影響を受けてきました。世界各地の文化を学ぶのが好き。行く先々でさまざまな物を見つけ、意識せず自分のスタイルに反映しています。

創作活動は私の原動力です。そもそも昔から美術が大好きなので、何かを創りたくてたまらない。大学時代は美術史に心を魅かれ、芸術を通じて自分探しをしていました。何か特別な体験を生み出したいのです。創作はエモーショナルな営みです。

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ラゴスのファッションシーンはどんな様子ですか?

まずは音楽シーンがあって、そこに独自のファッションが付随してきます。デザイナーたちは新しいコレクションをつくっていますが、音楽シーンの状況とナイジェリア在住デザイナーの仕事に間に大きなギャップがあるのです。オルタナティブを意味する「アルテ」という言葉が使われていて、多くの人がこの言葉に食傷気味。ある程度の年齢で、ある程度の人付き合いがあって、音楽に関わっている人は、自動的に「アルテ」と呼ばれます。必ずしも悪い意味ではないのですが。

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「アルテ」はどんな外見ですか?

女の子の場合は、90年代のクールなスタイルを指すことが多いのかな。ハイカットのブーツ、ミニスカート、丈の短いトップスを身に付けています。

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スタイリングには、自分が受け継いだ伝統を取り入れようとしていますか?

必ずしもそうではなく、義務のように感じたこともありません。毎日のように伝統衣装を着るわけじゃないので。でも他のナイジェリア人デザイナーたちと仕事をするときは、自分のやり方を押し付けないようにしています。数年後には、彼らがオリジナルのナイジェリアスタイルを刷新できるかもしれないから。伝統衣装もそうやって成り立ってきたし、今でもナイジェリア国内での出身地を表す装いです。それが私のオリジナルスタイルに対する考え方。欧米風ではない昔の普段着は「トラッド」と呼ばれ、結婚式などで着用されます。この伝統衣装のルーツを振り返り、新しい技術で自分の作品をつくりながら模索している人たちと仕事ができるのは嬉しい。新しい工夫は、縫製や素材に表れています。

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スタイリストやクリエイターとしてナイジェリアで生活しながら、「アフリカ人ファッションデザイナー」という固定概念によってデザイナーたちの可能性が狭められている状況は感じますか?

問題は「アフリカ人ファッションデザイナー」について周囲の人々が抱いているイメージでしょう。そんな肩書きを聞いただけで、特有のプリントやシルエットを期待されてしまいますから。これこそが今取り組んでいる課題です。アフリカ人デザイナーだからといって、衣服にカラフルな素材を使用するわけではない。しっかりとしたオーダーメイドのスーツやツーピースをつくるのもデザイナーの仕事です。アフリカ人にまつわる物語を書き換え、アフリカの文化や人々に関するすべての固定観念を覆すことが必要になります。

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アフリカのクリエイターにまつわるイメージをどのように変えようと考えていますか?

大まかに言うと、ここラゴスでファッションの基盤を成長させたいと思っています。自分だけの問題ではありません。ここにいるデザイナーの作品をスタイリングするときも、世間が彼らに注目してほしいと願っているし、作品の素晴らしさと可能性を目に焼き付けてもらいたいのです。私たちが持っている能力の高さを示し、秘められた才能を解き放ちたい。それが私のやりたいことです。

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ロンドンではなくナイジェリアを拠点とすることで、キャリアにどんな影響がありましたか?

ロンドンにいたら、ここにいるクリエイターやデザイナーと知り合うこともなかったし、個人的な関係を築くこともできませんでした。だから故郷でそれができているのは重要なこと。そもそもナイジェリアでやりたいことがあるから、ここに帰ってきました。「私は今どこにいるの?どこを拠点にしたいの?」と自問して、故郷に帰ることを選んだのです。それは自分のやりたいことにも直結していました。将来的には、アフリカ中のブランドとたくさん仕事をして、いつもアフリカを飛び回っていたい。これまでも、自分の目標と感性に従って大きく人生の進路を変えてきました。だからこそ、今はここにいるのだと思っています。

文:ディヴァイン・ブラックシャー
写真:ダン・ムボ

報告:2020年11月

公開日:2021年9月6日