研究者に聞く、瞑想とマインドフルネスエクササイズのメリット
健康とウェルネス
マインドフルネスと瞑想のメリットと簡単な始め方をチェックしよう。
1日に数分時間をとり、静かに座って瞑想したり、ヨガや太極拳などのマインドフルネスエクササイズを行ったりして、心身の状態に対する深い意識を養うことで、心と体の両方に良いさまざまなメリットを得られる。 そして、これは科学的に裏付けられている。 研究結果と、専門家から初心者へのアドバイスをチェックしよう。
ストレスレベルの低減とそれに伴う効果
瞑想やマインドフルネスエクササイズが、ストレスに関連する生理学的指標の改善(血圧の低下や心拍の安定など)につながるという証拠が次々とあげられている。そう語るのは、ファインスタイン医学研究所の調査助手であり、運動生理学と行動科学の研究に携わるキアラン・フリエル教育学博士だ。
「瞑想によってコルチゾールの分泌調整が改善されることが明らかになったのは、最も注目すべき研究結果の1つです。コルチゾールとは、ストレスがかかった時に生じる、戦うか逃げるかの反応と密接に関係しているホルモンです」とフリエル氏は言う。
これはとても大事なことだ。 クリーブランド・クリニックによると、コルチゾールは人体の器官や組織ほぼすべてに影響を与える。 分泌が適切に調整されていれば、コルチゾールは、代謝機能の最適化、炎症の抑制、血糖値の安定といった作用をもたらすのだ。
コルチゾールが正常に分泌されず、自然に分泌量が多くなる朝を過ぎても1日中コルチゾール値が高いままになると、腹部の脂肪の増加、不眠症、筋肉の衰え、免疫不全につながるおそれがある。 マインドフルネスや瞑想には、そのような時にコルチゾール値を本来あるべき状態に戻す効果がある。 たとえば、医学生に対して行われた2013年の研究では、瞑想をたった4日行っただけでコルチゾール値が大幅に低下した。
ほかにも、ストレスレベルの高い人を調査した2021年の研究によると、瞑想によってコルチゾール値が低下しただけでなく、時間が経過してもその効果は薄れなかったようだ。
運動能力の向上
マイアミ大学の瞑想神経学教授であるアミシ・ジャー医学博士によると、心の状態が正常であることはスポーツやフィットネスにおいて必要不可欠であり、マインドフルネスはそのような心の状態を確保するために役立つ。
その有効性を見極めるために、ジャーと同僚の研究者は大学アメリカンフットボール選手100人を募集し、リラクゼーションかマインドフルネスのいずれかのトレーニングを4週間行わせた。 『Journal of Cognitive Enhancement』の2017年号に掲載されたその研究結果によると、どちらのメソッドにも不安を軽減する効果があるが、アメリカンフットボールの練習中の集中力、主体性、注意力の持続といった点でマインドフルネストレーニングの方が良い効果があった。
「この研究結果は、運動能力にプラスの影響をもたらし得ることを示している他の研究結果とも一致しています。 たとえば、集中を妨げる思考が発生しづらくなるなど、心の平穏の確保や認知機能の改善といった効果があります」とジャー氏は語る。
大学レベルのアスリートを対象とした2020年の研究によると、持久力を高める効果もある。 その研究では、マインドフルネスを取り入れたトレーニングプログラムを5週間行った結果、持久力トレーニング中の疲労が少なくなり、呼吸と姿勢も改善された。
精神機能の活性化
エクササイズ中の集中力が高まれば、運動能力が向上するだけでなく、日々のほかのタスクの助けにもなる。 瞑想には認知能力に関するメリットがあることが分かっており、多くの人はマインドフルネスエクササイズでも、座って瞑想するのと同じ効果を得られる。
たとえば、『Frontiers in Human Neuroscience』の2015年号に掲載された研究レビューによると、ヨガや太極拳などのマインドフルネストレーニングで見られる「巧みな動き」によって、注意力、集中力、学習能力、整理力が向上するとのことだ。
そのレビューを発表した研究者たちは、瞑想によって体の感覚(呼吸時に胸と腹部が上下に動く感覚など)に集中することで、心と体のつながりが研ぎ澄まされ、注意散漫になったり、気が散ったりすることが減ると主張している。
マインドフルネスエクササイズの始め方
瞑想の精神状態を身に付けるには時間がかかり、これはある意味で新しい言語の習得に似ている。 意識の高さ、違和感や不快感を受け入れる能力、慣れるための環境が必要だ。 以下では、その取り組みを始めるためのヒントを紹介する。
1.初めは心が落ち着かないかもしれない。
瞑想に関する83件の研究結果を調査したレビューでは、被験者の約65%が、少なくとも何らかの「瞑想による有害事象」(不安や胃腸障害など)が生じたと報告していることが分かった。 それは座って思考を巡らせると複雑な感情が芽生えることがあるからだ、とメリンダ・ナスティ氏は言う。ニューヨークのノースウェル・ヘルスで精神医療担当ディレクターを務める総合療法士だ。
そのようなことが起こり得ると知っておけば、心の準備ができるだろう。また、徐々に客観的な視点に移行したり(思考に没入するのではなく思考を観察する)、呼吸を数えたりするなどのテクニックを用いるのも効果的だ。 体の感覚に意識を戻すことで、考えが巡るサイクルを脱することができる。
2.瞑想アプリを使ってみよう。
フリエル氏によると、瞑想、呼吸エクササイズ、マインドフルエクササイズ、心を落ち着かせる夜のイメージトレーニングをガイドするアプリがいくつもある。 たとえば、Headspaceなどのアプリでは、これらに加え、日替わりエクササイズや、瞑想に使用できるBGMも用意されている。
「このようなアプリの良い点は、初心者をサポートするようにできており、自分のニーズに合わせて使用できることです。 ほかのエクササイズと同じように、つらい日もあれば、楽な日もあります。瞑想のスキルは徐々に向上しますが、アプリのようなツールがあれば練習の枠組みとして役立ちます」と、フリエル氏は語る。
3.セッションではなく、今という時間に集中しよう。
練習を重ねると瞑想やマインドフルネスエクササイズのセッションを長時間行えるようになるが、初心者のうちは日々の活動の中にマインドフルネスの時間を組み込むよう、ナスティ氏は勧めている。
彼女によると、「今日の空は何色だろうか? 木につぼみはあるか?」と考えてみるとよい。 「今という時間に気持ちを集中させ、自分が置かれている環境に意識を向けることも、マインドフルネスだといえるでしょう。ウォーキング中であれば、それも一種のマインドフルネスエクササイズになるのです」とのことだ。
4.最も大切なのは、気長に取り組むこと。
ナスティ氏によると、思っているより早く瞑想の効果を実感できる可能性が高いが、最初はかすかに感じる程度だということを覚えておかなければならない。
たとえば、少しだけストレスを感じにくくなったり、以前より数分早く眠りに落ちるようになったり、日々の生活の中で「今を生きている」と自覚するようになったりする。 マインドフルネスエクササイズや定期的な瞑想セッションを継続的に行うと、これらの効果がより顕著になっていく。
「このエクササイズの効果は徐々に高まっていくので、気を長く持ちましょう。 日々の生活に小さな変化とマインドフルネスの時間を取り入れれば、座って瞑想するのが徐々に楽になり、長時間のセッションを行えるようになります。 そうすれば、体、心、精神に良い効果が表れるはずです」とナスティ氏は述べている。
文:エリザベス・ミラード