ハイキングがもたらすメリットをエキスパートが解説
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医療専門家が、ハイキングが健康にもたらすメリットと、長時間のハイキングの装備に関するアドバイスを提供。
ハイキングと聞くと、ただ森の中を歩くだけなのに大げさだと思う人もいるかもしれない。しかしハイキングには、いつもの近所の散歩を上回る心身へのメリットが期待できる。
その証拠に、2018年の『American Journal of Lifestyle Medicine』に掲載された研究では、医師が、健康管理のソリューションとしてハイキングを勧めるよう推奨。それによって身体活動のガイドラインを満たし、座りがちなライフスタイルに起因する健康障害が死亡率を高めることを防ぐ狙いがある。 これは、ハイキングによってただちに身体的な効用が得られるだけではなく、心血管疾患のリスク低減やストレスレベルの低下など、長期的な心と体の健康増進にもつながるためだ。
オステオパシー療法医のランド・マクレーンによると、ハイキングは、低強度の有酸素運動と考えられている。 低強度の運動は、強度の高い運動に比べて心肺機能への影響が少なく、筋肉への負担も少ない。 ただし、ハイキングは通常、その激しさによってカテゴリー分けされているので、タフな運動に挑みたくなれば、険しいトレイルを簡単に見つけることが可能だ。 簡単に言えば、強度が高ければ高いほど、体に与える影響も大きい。
「精力的なハイキングとともに、(完全な休息ではなく)非常に軽い運動で細胞の回復を促進する『アクティブリカバリー』としてのハイキングを組み合わせてみましょう」と、マクレーンは言う。
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ハイキングは、専門家の間では他の運動に比べて強度が低いと考えられているものの、他の運動と同じようにさまざまな健康上のメリットをもたらす。 また、筋肉や関節を守るために、ハイキングの前には適切なウォームアップと準備をしておくことが必要だと専門家は指摘する。
ここでは、ハイキングの後に得られるメリットについてご紹介しよう。
ハイキングが健康にもたらす4つのメリット
1.ハイキングは心血管系疾患のリスクを下げる可能性がある。
ジュリー・シャッピー博士 (アスレティックトレーナー、 マスターパーソナルトレーナー)は、ハイキングによって体の最も重要な筋肉である心臓を鍛えられると説明。 体を動かし、トレイルの高低差のある地形を歩き回ると、心拍数が上がる。それが、長い目で見ると心臓の健康に役立つのだ。
「心臓が強く、効率的に機能すればするほど、心臓病、高コレステロール、肺疾患に加えて、癌や血管疾患、糖尿病の二次的影響のリスクまで減らすことができます」とシャッピーは述べている。
2019年の『Frontiers in Cardiovascular Medicine』誌に発表されたレビュー論文では、運動は心臓の健康を改善するとともに、血管を拡張させ炎症を減らすなどして、心血管疾患の危険因子を抑制すると結論付けられている。
2.ハイキングは、バランス感覚と運動制御力を高める。
シャッピーは、ハイキングの起伏のある地形が、バランスの固有受容感覚に働きかけると指摘する。つまり、ハイキングを続けるうちに、体の平衡感覚、バランス、動き方が改善され始めるのだ。 また、ハイキングコースは平坦ではなく、木の根や岩、時にはぬかるんだ水たまりをよけて歩く必要があるため、ハイキングはバランス感覚を含む運動能力の微調整にも役立つ。
良好なバランス感覚は、高齢者だけではなくどの年代の人にとっても非常に重要だと、シャッピーは言う。 バランス感覚は運動能力などの身体を使う作業を助け、神経系と運動技能に良い効果をもたらし、転倒のリスクを減少させる。
3.ハイキングで持久力がつく。
マクレーンもシャッピーも、ハイキングが持久力トレーニングにもたらす効果について言及している。 持久力トレーニングは有酸素運動とも呼ばれ、呼吸と心拍数を増加させる活動を含む。ハイキングもその活動のひとつだ。 そして、日常的に持久系のトレーニングに取り組むと、様々な効果が期待できる。
2021年の『Journal of Applied Physiology』に掲載されたある小規模研究では、持久的運動が特定のミトコンドリア由来ペプチドの血中濃度を高め、長寿だけではなく代謝関連の健康にも役立つことが明らかになった。 代謝的に健康な状態とは、血糖値、HDLコレステロール(健康なコレステロールの一種)、血圧が理想的な値であることを意味する。 これらはすべて、心血管系疾患や糖尿病のリスクを軽減するのに役立つ。
4.ハイキングはストレスを軽減し、メンタルヘルスを改善する。
精神医学博士のベンジャミン・ミラーによると、ハイキングは、運動という要素や、それを行う環境などにより、精神的な健康をもたらす効果があるという。
「運動はストレス、不安、うつを緩和するなど、気分を改善するのに役立つのと同時に、体重管理や健康障害の予防などにより、身体全体の健康状態を改善することが分かっています」とミラーは語る。 「自然環境とつながる。その行為には、大きな力があるのです。 地域社会の心理的な幸福度は、緑や海、川、湖などへのアクセスのしやすさと関係があることが、複数の研究により明らかになっています」
「実際にスコットランドでは、屋外でのハイキングを処方箋に記すことが、医療体制の中で認められています。これはストレスを抑え、血圧を下げ、健康全般を向上させるためのものです」とマクレーンは述べている。
他にもミラーによれば、運動や自然の中で過ごす時間を優先することで、ストレスから心を解放することができるそうだ。外に出ることで実際に仕事の生産性が上がり、ストレスレベルを管理できる可能性があるとする研究もある。
ハイキングのためにどのような準備をすればよいか
活動的な高齢者を対象とした心肺理学療法に力を入れているシャッピーは、初めての場所で長いハイキングに挑む前には、基本的なストレッチと、ゆっくりとしたウォームアップを行うこと(平坦な場所を5分ほど歩いたり、ストレッチバンドを使ってストレッチを行うなど)を勧めている。
そして、ラミ・ハシシュ博士 (理学療法学博士)によれば、いよいよトレイルに入るときは、ハイキングの間中、体がどのように感じるかに注意を向けることが重要だという。
「陳腐に聞こえるかもしれませんが、長時間のハイキングを行う際に意識すべき最も重要なポイントは、自分の体の声に耳を傾けることです」とハシシュは話す。 「凹凸のある路面を進むと、姿勢を変えて慣れない筋肉を使いがちになり、結果的に疲労が蓄積されます」
また、ハイキングはワークアウトとは違って楽しい活動のように思えるかもしれない。そのためハシシュは、「トレイルの長さや難易度によっては、つい無理をしてしまう可能性があります」とも付け加える。 だからこそ、ロングトレイルを行いたいときは、休憩の時間を作ることが大切なのだ。
さらにマクレーンは、ハイキングでは十分な水分を持参することが適切な水分補給の鍵となると言い、
「45分~1時間以上のハイキングでは、発汗で失われる塩分を含むスポーツドリンクや、エネルギー(糖分)を添加した飲料などで、水分を摂取することがとても重要です。暑い日や乾燥した日は、特にそうですね」と話している。 「短いハイキングなら普通の水でも十分かもしれません」。これは特に、軽食(エナジーバー、フルーツ、サンドイッチなど)を持参する場合に当てはまるようだ。
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ハイキングからの回復方法
ハシシュは、ハイキングが終わったらゆっくりとクールダウンをしながら、激しい運動をした後の心拍数を徐々に下げていくことを勧めており、次のように述べている。
「クールダウンの方法のひとつにストレッチがあります。ストレッチをすると、筋肉の硬直を抑える効果も期待できます。 長いハイキングの後はやはり、足先から脚全体、そして体幹の筋肉を伸ばすことに重点を置きましょう」
ハシシュが勧めるもうひとつの回復法は、氷風呂に入るような、全身を冷やす療法だ。
「これにより炎症を抑えるだけでなく、筋肉の回復速度を向上させる効果があることもわかっています」とハシシュは言う。 「また、筋肉の回復を最適化するために、電解質を含む水分を補給し、ビタミンB、C、Eなどのビタミンを摂取することが推奨されています。 加圧ウェアも、筋肉痛の抑制に役立つ可能性がありますね」
文:キアステン・ヒックマン