背中の筋肉と鍛え方に関するガイド
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強い背中は、正しい姿勢を保ち、スポーツパフォーマンスを高め、痛みやけがを防いでくれる。
普段は鏡やカメラ越しにしか見ることのできない背中の筋肉。それでも、背筋はいつもあなたを守ってくれている。 背筋があるおかげで、私たちは真っすぐに立ち、重力に耐え、腕を動かしてもバランスを取っていられる。
そんな背筋が本来の力を発揮するために、あなたに望んでいることがある。それは背筋に注意を向けることだ。 特にジムにいる時や、自宅でトレーニングする時、背筋はあなたからの注意を必要としている。 背筋を強化するエクササイズを行うことで、あなたを支えてくれている背筋を、今度はあなたが支えることができるのだ。 (関連記事:パーソナルトレーナーが教える、ワークアウトに加えたい「背筋を鍛えるダンベルワークアウト」3選)
背筋を強化する方法を見ていく前に、まずは解剖学的な視点から、基本的な背筋の機能について確認しておこう。
背筋の基礎知識
背中にある筋肉は、姿勢筋とよばれる筋肉に分類される。 姿勢筋は、脊柱を安定させる役割を担うため、常に「オン」の状態だ。 姿勢筋は本質的に、体が重力に耐えられるよう支えてくれている。そう語るのは、理学療法博士(D.P.T.)、 認定アスレチックトレーナー(A.T.C.)、 認定ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト(C.S.C.S.)の資格を持ち、Aries Physical Therapyのオーナーであるウィリアム・ケリーだ。 また、腕を動かしたり、さまざまな方向へ体を動かしたりする際にも、背筋は役立っている。
基本的な背中の筋肉を紹介しよう。
- 広背筋。 2つある三角形の筋肉で、背中の大部分を占めており、 上腕から骨盤、肋骨へと伸びている。 理学修士(M.S.)兼C.S.C.S.、そして ジョージア州アトランタのPEAK Symmetry Performance Strategiesのオーナーでもあるジェニファー・ノバクによると、広背筋の主な機能は、腕の内旋や伸展、また腕を体の正中線に向けて動かす、いわゆる内転を行うことだ。 このため、広背筋はプルアップやラットプルダウンに加え、ローイングや水泳といった運動と深く関わっている。
- 僧帽筋。 僧帽筋も、背中にある対を成す三角形の筋肉だ。 僧帽筋は首から肩にかけて広がり、背中の中央にまで伸びている。 Cleveland Clinicによると、僧帽筋によって、頭を上下左右に動かすことができ、さらに直立姿勢の時に肩甲骨を寄せて下げたり、胴体を捻ったりすることが可能になる。 ロウやプルアップ、シュラッグ、ラットプルダウンをする際に働く筋肉だ。
- 菱形筋。 菱形筋は、背中上部にある筋肉で、大菱形筋と小菱形筋に分かれている。 菱形筋は僧帽筋の下に位置し、脊柱から肩甲骨の端まで広がっている。 ノバクによると、菱形筋には肩甲骨を正中線に向けて引く作用があり、ベントオーバーロウで使われる筋肉だ。 また、リバースフライやフェイスプル(サスペンショントレーナーやレジスタンスバンド、またはケーブルプーリーを使って、肘を高く上げたままウェイトを額に向けて引く動作)といったエクササイズでも活躍する。
- 固有背筋。 背中のより深部にある、脊柱を支える筋肉。 固有背筋には、頭板状筋、棘間筋、横突間筋、脊柱起立筋、頭半棘筋、多裂筋および回旋筋が含まれる。 ケリーによると、固有背筋は主に、立位と座位の両方、そして手足を動かす際に、脊柱の安定化を担っている。 また、脊柱の伸張、屈曲、回旋、負荷に対する抵抗にも役立っていると言う。 固有背筋はほとんどの動きをカバーしているため、デッドリフトやロウなどの機能運動を行う際には、必ず使用する筋肉だ。 だがノバクによれば、不安定な足場で運動することで(Bosuボールを使うなど)、固有背筋を狙って鍛えることは可能だと言う。
- 肩甲挙筋。 首の両側に沿って走る筋肉。 主な機能は肩甲骨を下方に回旋させることで、「上方へ回旋させる僧帽筋下部とは反対のはたらきをする」ものであるとノバクは言う。 肩甲挙筋は肩の運動で使用する筋肉で、腕を真っすぐに伸ばした状態で行うプルダウンやシュラッグ、ローイングや水泳で機能する。
強い背中がもたらす3つのメリット
1.姿勢が良くなる
背筋は胴体を直立させる上で、主要な役割を担っている。 実質的には、重力に抵抗するため、ひと時も休む間もなく働いているのだ。
背筋が弱いと、適切に体を支えることができず、脊柱を安定させることもできない。 すると、背筋の弱さをカバーするために、姿勢が悪くなってしまう可能性がある。 そうなると肩が内巻きになり、腰背部が丸くなって、時間とともに凝りや痛みが生じてしまう。 「言ってみれば、自分を支える力が不十分なために、体が中心から崩れてしまうようなイメージです」とケリーは言う。
だが背筋を鍛えれば、体を適切に直立させることが可能になる。 背筋の支える力が高まるほど、どんな体勢でいるかに関わらず、脊柱をより安定させることができるとケリーは言う。
2.けがの予防
「私たちが日常生活や運動を行う中で、足から背中、そして上半身へ、あるいはこの反対の順序で、力を伝達する動きを行うことは多々あります」とケリーは語っている。
重い物を持ち上げる時が良い例だ。 背筋の力が不十分だと、重い物を持ち上げようとする際、足との間で力の伝達が上手くいかず、痛みやけがを招く恐れがある。 反対に背筋が丈夫であれば、力の伝達がうまくいくのだ。
3.パフォーマンスの改善
強い背筋は、ジムやフィールドで大きく役立ってくれる。 「パフォーマンスの観点から言えば、背筋が強いほど、パフォーマンスの安全性と効率を高めることができます」とケリーは言う。
良く鍛えられた背筋があれば、リフティングやタックル、スローイング、ジャンプなど、あらゆる動作をよりパワフルに行うことができる。 また、水泳やゴルフ、テニス、パワーリフティング、サイクリング、ローイングなど、背中を重点的に使うスポーツにおいては、動きを生み出し、けがを避けるために、丈夫な背中が必要不可欠となる。
背筋を鍛える方法
1.重いウェイトを持ち上げる
背筋を鍛えるための最善の手段は、重いウェイトを持ち上げるコンパウンド(多関節)リフティングだ。 デッドリフト、クリーン、スナッチ、ジャークが例として挙げられる。 ただし、難易度の高いこれらのトレーニングを経験しことがない人は、必ずパーソナルトレーナーや専門家について、適切な技術と準備運動を教わってから取り組むようにしよう。
重い物を持ち上げる時、背筋は肩と体幹を安定させ、足から力を伝達させるために、常に働いている状態になるとケリーは言う。
デッドリフトで実際に体感してみよう。 デッドリフトは通常、バーベルとウェイトプレートを使って行う。 ケトルベルやダンベル、またはレジスタンスバンドを使って行うことも可能だ。 どの道具を使うかに関わらず、デッドリフトをする際は、まず自重や軽量のウェイトで試してみてから、重いウェイトに変えていくことが推奨される。
ここで、バーベルを使ったデッドリフトのやり方を紹介しよう。
- 始める前に、ウェイトプレートがバーベルカラーやバーベルクランプで固定されていることを必ず確認する。
- 足を腰幅に開いて立ち、床に置いたバーベルはすねの近くに、爪先はバーの下に来るようにする。
- 背中と肩を丸めないようにして、腰を後方に押し下げる。 バーの握り方はオーバーハンドグリップ(手の平が下を向いた状態)。 この時、腰が肩より低い位置にあることを確認し、バーの前方およそ60cm先の地面に目線を落とす。
- 体幹の力を抜かずに、足で地面を踏みしめ、横隔膜を広げながら大きく息を吸う。 息を止め、今吸った息をこれから力いっぱい吐き出すつもりで、腰、臀部、足の筋肉を使ってバーを持ち上げる。 ただしここで息を吐いてしまわないこと。 胸を張り、肩は後ろ、目線は真っすぐ前を向いた状態で、バーを持ち上げ切る。
- ゆっくりと息を吐きながら、同様の動作で、真っすぐにバーを降ろしていく。 バーが体から離れないようにしつつも、膝を迂回するような動きをしないよう注意しよう。
2.背筋に特化したエクササイズ
ロウやプル、シュラッグ、エクステンション、ローテーションなど、背中に特化したエクササイズで、さらに背筋を鍛えよう。 ケリーによると、多様な動作を取り入れれば、背中の筋肉をさまざまな組み合わせとパターンで使うことができる。 これによって、強く均整の取れた背中を作ることが可能になる。
主要な背筋トレーニング:
- ベントオーバーロウ
- ラットプルダウン
- ショルダーシュラッグ
- プルアップ
- スーパーマン
- シーテッドロウ
3.抵抗運動を取り入れる
「背筋を狙って鍛えるもう一つの方法は、動きに抵抗するために体幹と背筋を必要とするエクササイズを行うことです」とケリーは言う。 このようなエクササイズは抵抗運動と呼ばれ、それぞれ抗回旋、抗屈曲、抗伸展、抗側屈運動に分類される。 例として挙げられるのは、パロフプレス(抗回旋)、プランク(抗伸展)、バックエクステンション(抗屈曲)、サイドプランク(抗側屈)だ。
抵抗運動によって、体幹と背筋の安定力を高め、負荷がかかっても同じ姿勢を保つことができるようになる。 背中のあらゆる筋肉を鍛えることは、日常生活やスポーツを行う上で、さまざまな動きに耐えて脊柱を守ることにつながるとケリーは言う。
文:ローレン・ベドスキー