目標を達成するために、過程でのやりがいを見極めよう
Coaching
非現実的な期待を持つと、目標達成に向けて取り組むのが難しくなる。この隠れた落とし穴を避けて、正しく目標を定めよう。
- 壮大な目標を立てたからと言って、達成に向けてより一層努力できるとは限らない。得られるものがどれほど大きくても計画倒れに終わる可能性がある。
- ときには自分の進捗を振り返り、目標プランを練り直すことが必要だ。
- Wish(願望)、Outcome(結果)、Obstacle(障害)、Plan(計画)を想定する「WOOP」戦略を実践して、障害を克服しよう。
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マラソンを完走する。健康的な食生活を30日間続ける。逆立ちをマスターする。そういった大きな目標を立てると誰でもワクワクする。しかし最初はやる気満々でも、次第に達成へのモチベーションが下がり、あえなく挫折してしまうのはなぜか。最近の研究結果によると、原因のひとつは目標達成への熱意に比べて、目標達成に必要な負担が大きすぎるからだという。
「達成に向けて努力が必要なとき、やろうと決めることと、実際にやることには大きなギャップがあります」と指摘するのは、アガタ・ルドヴィチャク博士。ロンドン大学クイーン・メアリーの心理学研究者だ。「努力を要する選択を行うとき、人は報酬に注目しがちです。でも実際にどれだけ努力するかは、どちらかと言うとタスクに求められる労力に左右されます」と博士は言う。これがまさに、10キロレースではなくハーフマラソンに出場を決めてしまう理由。「完走すれば自慢できる」という報酬を意識するから、判断が鈍ってしまうことがあるのだ。
『Behavioural Brain Research』誌に掲載されたルドヴィチャク博士の研究は、2段階に分けておこなわれた。最初の段階では、負荷と金銭報酬の異なる2つのタスクを被験者に見せ、1つを選んでもらうという作業を繰り返す。多くの場合、より簡単なタスクの報酬は少なく、より難しいタスクの報酬は多いという設定だ。次の段階では、最初の段階で選択したタスクの完了を、被験者に目指してもらう。この調査の結果、第1段階では高額な報酬が最も重要視されるが、第2段階では考え方が180度変わることが明らかになった。瞬間に必要とされる労力が一番の関心事になり、最初の段階で重視していた金銭報酬にこだわらなくなるのだ。
「この研究でわかったことは、目標が5キロのランであれマラソン完走であれ、トレーニングランの最中に脳が意識するのは、その日に必要な努力だということです。この努力が予想を大きく上回って過酷な場合、報酬が魅力的であったとしても途中でやめてしまう可能性が高くなります」とルドヴィチャク博士は語る。
被験者に提示された報酬は少額だったが、もしこれが難易度の高い山への登頂やアイアンマンレース完走のような、生涯の夢の実現であったらどうだろう。達成のための努力を続けるべきではないか?そう思う人は、プロセスを開始する前にやると決心した理由を明らかにすること。そうすれば自信喪失や失敗に陥らずに済む。そのための方法を伝授しよう。
1. まず、報酬について考えない。
「選択肢があるときは、目標達成にどれだけの努力が必要になるかを考えましょう」とルドヴィチャク博士は語る。甘い考えを持たず、現実をしっかりと見据えよう。たとえばパン好きの人が、ケトン食を1か月続けるのは難しいだろう。週末に早起きしてトレイルに行ってトレーニングランに励むのが嫌なら、アドベンチャーレースへの出場は考え直したほうがいいかもしれない。
途中で問題にぶつかったり、目標達成を義務のように感じ始めたりしたら、別のアプローチに切り替えることを博士は勧める。ワークアウト中に音楽を聴いたり、友達を誘って一緒に目標を目指したり、大きな目標の中に達成しやすい小さな目標を設けたりするのもいいだろう。
2. 自分の行動を振り返る。
数週間、数か月間と、目標達成に長い時間がかかる場合もある。そんなときは、自分自身を振り返ることで集中力を維持できるし、自信喪失も避けられる。スイスで行われた研究では、ソフトウェア開発者たちに職場での健康を向上させる目標を設定し、その後2~3週間ごとに時間をとって自らの行動を評価するよう依頼。研究を実施したチューリッヒ大学によれば、このシンプルな振り返りによって、職場での良い習慣と悪い習慣に対する認識度が85%向上し、生産性と満足度への自己評価が80%上昇したという。
ワークアウト中、どう感じたかを書き留めておくのも良いアイディアだ。そして休息日に、ここ1週間で取り組んだトレーニングを振り返ってみる。プラン通りに実践できたか。簡単すぎ、または難しすぎたか。進歩できる程度にやりがいがあり、負担になったり自信を失ったりするほど難しくないレベルに調節しよう。
3. 潜在的な障害を認識する。
ポジティブ思考には、世間でもてはやされているほどの効果がない。そう語るのは、心理学者でニューヨーク大学教授を務めるガブリエル・エッティンゲン博士だ。長年にわたる研究で明らかになったのは、達成に向けてトライするとき、大きな夢を持つことがかえって努力の量や質を低下させ、実現を遠ざけてしまう可能性だという。
こういった状況を打開したい人のために、「Wish(願望)、Outcome(結果)、Obstacle(障害)、Plan(計画)」の頭文字を取った「WOOP」と呼ばれる考え方を博士は提唱している。まず難しそうだが実現できそうな願望を設定しよう。たとえば平日の夜は禁酒したいと考えているなら、それによってもたらされる最高の結果と日常生活の変化を具体的に思い浮かべてみる。よく眠れるようになって、前より元気になりそうだ。次に実現する上で障害になっていることを認識する。「深く掘り下げて自分自身に問いかけよう」とエッティンゲン博士。自分の中の何が邪魔をしているのか。感情、理不尽な考え、疑念、あるいは悪習慣だろうか。夕食時にワインを1杯飲んでしまうのは悪習慣だろう。そして最後に、障害を克服に役立つ行動や考え方を特定し、「if-then」方式の計画を立てる。「もし(If)夕食の時にワインを飲みたくなったら、その時は(Then)発泡性飲料か炭酸水を飲む」といったことだ。
「ポジティブに夢見ることで、人はすでに夢を達成したように感じ、努力へのエネルギーを失っていきます。そんなとき、障害を認識することで意欲がわき、『if-then』プランによって障害を乗り越える方法を特定できます。途中で障害が出てきても自動的に対応策を引き出せるので、目標達成に向けて進み続けられるのです」とエッティンゲン博士は説明する。
最も大事なことは、より実現可能な目標を追いかけることは、恥ずかいことではないと認識すること。小さな成功体験を積み重ねていけば、いずれ大きな目標へ向かって努力できる準備も整う。ワクワクした気持ちで、より大きなチャレンジにも挑めるようになるのだ。
文:マージョリー・コーン
イラスト:ルネ・フィスカー