デザイン誕生まで:オレゴン州クレーター湖
クレーター湖といっても、小惑星、彗星、隕石によって形成されたものではない、と聞いてがっかりしたあなたもちょっと待ってほしい。「8,000年ほど前の噴火で崩壊した火山によってできた巨大な穴」宇宙からの衝突物より興味をそそられるストーリーではないだろうか。
実際、それがオレゴン州南部にあるクレーター湖の正体だ。ここでは、2021年春のACG最新コレクションのインスピレーション源となった自然の驚異について紹介する。クレーター湖まではそれほど遠くなかったが、その起源を考えながら透明な湖面を見つめていると、過去の時代に遡っていくような気持ちがした。最新のコレクションが、同じような感覚を呼び起こすものになればいい。
話を火山に戻そう。マザマ山と呼ばれた火山は、およそ7,700年前に大噴火を起こし、太平洋岸北西部の景色を決定的に変えてしまった。この噴火により、かつて火山があった場所の下に「カルデラ」と呼ばれる大釜のようにくぼんだエリアが形成されたのだ。正確にはクレーターではないのだが、この「くぼみ」こそがクレーター湖の由来。2021年春のコレクションでは、このマザマ山にちなんだ数種類のパターンとカルデラのユニークな形状をヒントにしたデザインが登場する。
マザマ山の噴火は、凄まじい光景だっただろう。大量の軽石や灰が降り注いだことも容易に想像できる。マザマ山の火山灰の微粒子は、なんとグリーンランドでも見つかっているのだ。1ミリ以上の灰が積もったエリアは、1,000,000平方マイル(約259万平方キロメートル)に及んだと言われる。地表の下、5キロ以上離れた場所にある巨大なマグマのタンクが噴出し、急速な崩壊、そしてカルデラの形成につながっていった。
これが、現在のクレーター湖のある地域を生み出した背景だ。そのあと、この地域をここまで美しいものに変えたのは、約250年という自然界では比較的短い歳月。雨と雪がくぼみに降り注ぎ、現在の水位まで満たすと、自然は降水と蒸発を繰り返して完璧なバランスを保ってきた。クレーター湖は別の湖や河川とつながっていないため、堆積物がない。これが一年中澄んだ青い色を維持できる理由だ。2021年春のシーズンでは、Watchman Peak Fishing Capsuleコレクションなど、多くのウェアに青みがかったカラーを採用した。
コレクション名に「Fishing(フィッシング)」の文字が入っていることから、クレーター湖で釣りができるのかと疑問に思った人もいるかもしれない。湖の魚は、もちろん空から降ってきたわけはなく、約130年前から湖に放流されてきたものなのだ。現在の湖には多くのヒメマスやニジマスが生息し、クレーター湖やその周辺の小川では釣りができる。ウィザード島では、桟橋で釣りを楽しむことも可能だ。
おっと、まだウィザード島の説明をしていなかった。ウィザード島の形は、魔法使いの大きな帽子を想像してもらえばいい。この島は、大噴火の後に火山から放出された熱い燃えかすによって形成された。これは噴石丘と呼ばれ、ウィザード島は世界屈指の美しさを誇る。島に住民はいないが、ボートで訪れることができ、ハイキングも楽しめる。コレクションでは、この島も表現されている。
クレーター湖の底の熱水活動により、科学者たちはマザマ山が再び噴火する可能性があると考えている。かつての「大噴火」以来、湖の下では小さな火山活動が続いているのだ。春がやって来ても、気は抜かないように。自然は一瞬で変わる。だからこそ、ACGは真剣に自然と向き合ってきた。ACGとは「All Conditions Gear」の頭文字。私たちはあらゆる環境に対応できるギアを作っている。